アキアカネ(百蟲譜1)/佐々宝砂
 
いまはもうない家の
いまはもうない裏の畑で
空いっぱいに舞っていた
アキアカネ。

物干し竿に 洗濯物に
それをとりこもうとしてる母の髪に
それを見ている私の肩に
アキアカネ。

そのときはじめて
そのイキモノの名前を覚えた。
いまはもうない家の
いまはもうない裏の畑で。

アキアカネのあれほどの群舞を
私は二度と見ない。

(未完詩集『百蟲譜』より)
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