散歩道/夕凪ここあ
 
「あ」と声に出そうとして
うまく発音できなかったそんな目覚め
冬はもうすぐ終わるというのに
まだ春は土の中であたたかな夢を見ている
喉が掠れて泣いているみたいだ
裏返って仕方ない。
空はなんにも遮るものがない蒼
ひとつ呼吸を整えると溜め息は白く
空気に溶けていく不安定な形で
知らない振りをして
あなたと散歩道に出れば
少しは気分が晴れて心地良い
それは手のひらの温度、とか
何気なく合わせてくれる歩くスピード、とか
小さく聴こえる呼吸の音、で
胸の奥でかすかな音をたてて落ち着く
ひとりきりの散歩道は
思い出ばかりが渦巻いて悲しい
そんなことばかりではないはずなのに
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