姫と王子/蒸発王
だって とても善く眠れたから
何も言えなかった だって やっと会えたんだ
だから もう良いんだよ
残ったのは
カップと少しの塩水で
彼の髪を撫でると
おやすみ
と囁いて
彼の頬に口付けた
※※※
姫君は病室を出て
(さようなら もう来ません)
と本当に
本当に嬉しそうに言って
ハイヒールを響かせながら
遠ざかって行った
医者が病室に入ると
どろりと溶けきった王子が眠っていた
判別できない顔面の中で
ただ1つ
彼が笑っている事だけは判った
むかしむかし
めでたしめでたしにはなりません
『姫と王子』
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