灯夜へ/木立 悟
 




午後に吠え夜に己れの洞に哭く肉の葛(かずら)に囚われし我




消えてゆくひとりの時間ゆうるりと道に描(か)かれた雨音のよに




午後に墜ち静かにぬるみ目のなかに羽ひらく人ひとくち歌う




仰いでもうつむいてもただそこにある幸いうすい命のあかし




重なりはどこまで深く重なりか鏡に沈む花に問う夜




硝子でも光でもなくむらさきは雪の穂波に遠去かりゆく




曇のない灯夜はふいに吹き消され雨の重なり語るひと息




朝になり朝になれない朝はいて午後のふところ泣き眠る頬




微笑みを降らせて我に触れるのは二度と戻らぬ声ばかりかな







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