遠いぬくもりを思い描きながら12月の空の下をゆく/大覚アキラ
 
12月29日
今年最後の出勤の朝
玄関で飼い犬を抱きしめてやると
不思議そうな顔をして
それから頬を舐めてきた

ぬくもりというのは
無条件に愛しいもので
一度味わってしまうと
決して忘れない
決して忘れられない

ぬくもりを忘れないから
人は生きてゆけるのだろうか

ぬくもりを忘れられないから
人はいつまでも苦しむのだろうか

冷たい風が
腕に残った犬の体温を
一瞬で拭い去ってゆく

愛しいものとあっけなく切り離される
この薄ら寒い感じには
いつまでたっても慣れることができない

見上げると
12月には似つかわしくないほどの
真っ青な空には
やたらと速く雲が流れていて

ふいに
あの人のぬくもりが
いま隣にあればいいのにと思った





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