床板の眼球/A道化
 




ぱらぱらと
ぱらぱらと
あの指の微弱な震えが錠剤の音を取りこぼす
そこにどれほどの眼球を差し出しても
私の平衡は心もとなく
ぽたぽたと ぽたぽたと 眩暈 落ち



いつの間にか 
眼球はやわらかく床にいて
的確な錠剤になれぬ眼球は 単にやわらかく床にいて 
ああ 眼球のある体は
些細な動きだけで衣擦れの音を侵し溶かすほどの温度と湿度を帯び
それ故に それ故に 錠剤にはなれず 単にやわらかく 床に


そうだよ
この温度を その指が錠剤と拾い間違うことを願い
この湿度を その指が錠剤と拾い間違うことを願い
ぽたぽたと ぽたぽたと 無作為に落ち
指の迂闊さを願い
ああ 私 単にやわらかく 床に
ただやわらかく 此処に いるんだよ



2004.3.31.
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