雨の日の為に/Utakata
雨の日のために誰かが涙を流さなければならないのだと、ある人は言った。
柔らかなラジオノイズのような雑音が脳内を満たしていく
薄い瞼ごしに 朝の微かに湿った空気が眼球をそっと刺した
それは冬の雨です
硝子窓の表面を音もなく滑り落ちていく白い闇です
それは冬の朝です
澄んだ残酷さで僕たちの肺を満たしていく蒼い呼気です
――僕は薄い夢から醒めて
辺りに何かが漂っていることに気付く
それは無数の
それは僕たちの全てが今まで彼らに託してきた無数の郷愁だ
彼らは亡霊のように
名前のない笑みを浮かべながら僕の周りを満たした
満たした
満
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