美術館/iloha
 
「年末、神戸の美術館にでも行こうか」
と、くしゃみをした

背後から語りかけてくる壁面
こんなにも長い時間
いまだ定まらない気持ちを抱えて
美しさに焦がれる空間

中国茶を飲むベランダで
苔玉に水が染みこんでいくように
生きていく証を得たはずだった

憧れのなかに潜む日常――

ルーブル宮の曇った窓硝子から
透き通ってくる勇気がぼくを照らした

マンハッタンのカタツムリは
ぼくを力いっぱい抱きしめ

万博公園のエナジーは
いつもぼくを心地よく打ち砕いた

というような結論、
だったのに。

進んでいく太陽に
視角の傾きを変えられてしまったのかも知れない
そうだ、あのとき、人々をつないできた憧憬は
確かにぼくの人生をつかんでいた

大切にしていたはずのガラクタを
そっと拾い集めに行こうと
もう一度、
鼻をかんだ
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