幸福についてのモノローグ/佐々宝砂
 
ストーブのうえで
かたかたと音をたててお湯が沸く
カルキ臭は抜けたけど元をたどれば水道水
だったそのお湯で
インスタントコーヒーを入れる
(特価980円のエクセラ)
明日の朝は8時から仕事なのだけど
なんでだか寝損ねたし
実は眠る気もなかったりする
死んだひとの歌声を連続再生しながら
隣室からきこえるいびきに少々辟易しながら
ちっとも返事をよこさないやつにメールを送る
返事がほしいからメールするのではなくて
単純にメールしたいからメールする
それからわざとらしく空をみあげる
星はひとつもみえなくて
でもあの雲のむこうにはいつだって星があって
そこに手が届かないとしても星があって
(それがわかってるから私は星をほしがるんだ)
熱いコーヒーはそれなりにおいしくて
私は今夜もかなり幸福なのである
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