聖夜の奇跡/逢坂桜
 
  最低の男と切れたかった。
  わがままで自己中で、嘘と暴力と借金。
  涙が流れる内はまだましで、最後には乾ききった。
  ゴミだらけの部屋で、青アザだらけの体で、汚れた壁を見つめた。

  いま―
  
  狭いながらもあたたかい部屋で、
  コンビニだけど、クリスマスケーキがあって、
  ケータイで隠し撮りした写真を見ながら、つい微笑んでしまう。
  
  あの頃―

  最低まで堕ちたあいつとあたしは、
  もう、顔を合わせれば暴力で金を奪われて、
  地獄だと認めたくなくてもそれは地獄以外のなにものでもなくて、
  包丁や剃刀を、ギラついた眼で握っていた
[次のページ]
戻る   Point(5)