夜想曲/________
 

香水で匂いを隠し
化粧で彼の唇を防ぎ
時計を腕にはめてその日の自分を縛るのだ
今わたしのために料理する手は
昨日彼の髪をつかんだかもしれなくて
だからわたしは笑って
ごめんごめん、でももう見ちゃった、って笑って言うべきだから
そう言った
ごめんね、あなたが来るっていうのにちゃんと始末してなくって、と彼女が言う
わたしは彼と彼女の日常の輪の外にいることをしっかりと認識する
涙が出そう、とわたしは思う
リヴィングに戻る彼女の背中は
わたしの小さな手でぽんと叩かれ
彼の大きな手ですっぽりと撫でられる
すっかり準備の整ったテーブルを挟んで
彼女は髪を右の耳にかけておめで
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