『逃亡か鹿』/しめじ
 
 亡羊とした耳が熱を帯びて、手にした砂時計のガラスを溶かしていく。零れ落ちる時間の束を必死でかき集めるのだが、砂は先へ先へとこぼれていくのでいつまで経っても追いつかないのだ。炬燵の中で散々こき使われている小人たちは一生懸命寒風摩擦を繰り返して、熱膨張の連続。真っ赤な光はやがて聖書に記載されて言葉となり流布されるのだ。そんなことをテーブルに置かれた日記帳に記しながら顔を上げると時計が三十時間ほど進んでいる。しかし三十時間時計が進んだとしてもアナログの針は実質六時間しか進んでいないわけで、やはり六時間針を戻せば元通り時計として機能するわけである。そう気がついたときに焦げ臭い匂いが鼻をつく。鍋を火にかけ
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