金魚(或いは彼らは痛みを知らない)/Utakata
見捨てられた水族館の水槽に沈む闇の中には金魚たちが棲んでいる
羽虫のような音を立てる水銀灯の明かりの底に浮かび上がる
彼岸花
詰まりかけた管が振動音とともに彼らに空気を供給する
それが失われたとき、まもなく彼らも死ぬことだろう
彼らはしかし 最後までそのことに気付きすらしないだろう
瞼のない目で
何を見るのか
「いいですか
ヒトの体温は彼らにとって酷く熱いものなのです
酷く熱いものなのです」
右手を水の中に沈め
(淀んだ時間に生まれた波紋と、指先に纏わる粘性の重さ)
ひそやかに泳ぐ彼らに触れる
彼らは逃げる
柔らかな刃物のような鰭の手触
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