偏心/吉岡孝次
月日が経てば、薄らいでいくものとさえ履んでいた。
指先に汗を滲ませ キーを叩いて
きみへの弁明を推敲し、
それを肉筆の誠意に置き換えて
あからさまな眼差しから逃れた積もりでいた。
本当はもう嫌だから、なんだか疎ましいから
そして傷つけてやりたいと思うほど好きじゃないから
僕は、今まで何度もそうしてきたみたいに
手を尽くさず 言わば片手間に礼を示した。
標準添付のメッセージに留守番電話も入れ直して
きみが、僕の声を求めて思案を巡らす可能性を
考えもなく摘み取り
僕は、悠々と自分の殻に閉じ籠った。
きみはきみなりに推量し、それ以上のことは誰にも聞かなかった。
でも僕は時々きみを想う。
もっといろいろ楽しめばよかったと、
他のひととの思い出に絡ませ
いい匂いのする後悔を味わう。
風呂上がりの痩せた身体で
キーボードを叩きながら。
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