Récit/Utakata
冷蔵庫の中に沈む午前三時の闇
車座に向かい合って呟き交わす僕らの言葉を
陰鬱に笑うオレンジ色が
少しずつ噛み砕いていく
(僕たちはどのくらい現実なのだろう)
昨日
古い物置小屋に火を付けた
幼いころにその中に閉じ込められた記憶の中で そこには
旧式のレコードプレイヤーがあって
むかし遊んだ巨大な熊があって
石油式のストーヴがあって
閉じ込められたままだった小さな子供があって
それで、
――石油がまだ残っていたのか
不意に勢いを増した炎
崩れかけた屋根の隙間から無数の亡霊が飛び出して
口々に勝手な言葉を喚き始める
彼らはやがて 新月の空に飛び立ってどこかへと消えた
どこかへと消えた
(僕たちはどのくらい現実なのだろう)
さようなら、と誰かが言い、
君の番だよ、と誰かが言う
燃え尽きた煙草
舐めあげた蜜
呟き交わす僕らの言葉が
少しずつ腐り始めていく
そしてまた、誰かが物語を語り始めた(・・・・ ・・・・・・・・・・・・)。
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