「脳梗塞」/広川 孝治
吹きすさぶ風音
窓をたたく雨音
ベッドに横たわり
耳に入る外の音に耳を傾ける
自力で寝返りをうつこともできない
かろうじて動くのは左手のひじから先
声も出せず
ただ目の玉だけを動かして
一人でじっと横たわる
命をつなぐは
胃に差し込まれたチューブから
注ぎ込まれる乳白色の流動食によって
もはや三年も
りんごの歯ざわりも
梨のみずみずしさも
なあんにも味わっていない
痰がからんでも咳き込むこともできず
誰かが気づいて吸引してくれるまで
苦しい呼吸に耐えている
顔がかゆくても掻くことができず
トイレに行きたくても
ただ
オシメヲカエテモラウシ
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