色街幻想/月夜野
 
  五月の青い闇の中
  私はか細い少年になり
  夢の迷路へ踏み入った


  白いうなじに風を受け
  はだしの足で土を蹴り
  煙る街灯はすに見て
  ネオン流れる色街へ


  着いた路地にはカツカツと
  商売女の靴の音
  闇に隠れて覗き見る
  色めく世界の艶やかさ


   (おいでな坊や 姐さんの
    胸の谷間でお休みよ)


  はだけた胸のその奥に
  うつろな深い洞があり
  寂しい鳥がその中で
  切ない歌をうたってた


  街の果てには黒運河
  水面に消える淡い夢
  佇む老いた船乗りの
  背中に落ちる時の砂


  五月の青い闇つきて
  夢の迷路を後にした
  連れて帰った寂しい鳥は
  いまも私の胸でうたってる




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