旅の荷物/渦巻二三五
でる。
崖の下にわたしが放り出されていた。
ああ、もう。
いらいらしながら死んだはずのわたしを鞄にしまう。
苦労して閉じる。
重い。
重い鞄を下ろして
地図を見る。
すかさずタクシーがやってきて
運転手が鞄に手をかける。
ちょっと、わたしの、勝手に持っていかないでよ。
乗らないわよ。
意地でも歩いて行くわよ。
そうだ。
もっとはやく気がつけばよかった。
わたしはこっそり鞄を置く。
これでもう
わたしは二度と死なない。
男がやってきた。
とうとう見つけた
わたしの男。
さあ、鞄を持って。
だめよ、そこで開けては。
あらら、開けてしまったのね。
足が出ちゃったわ。
慌てなさい、ほら、もう出発の時刻よ。
鞄の中身は男の死体。
あなたの、よ。
初出:一九九七年一二月二六日 @nifty 現代詩フォーラム
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