唄/真紅
最初の日曜日、世界は混沌とした闇の中にあって、まだ私の手の届く範囲内でした。
最初の夏、世界は混沌とした闇の中にあって、私はその世界で王様でした。
最初の冬、混沌とした世界は終わりを告げ、色濃い世界に私は旅立った。
混沌とした世界はとても暗く、とても狭かったけれど、それを補うだけの暖かさを持っていたのです。
色濃い世界は、私に追い風と向かい風をたくみに与え、私の足音を操ります。
厳しい風です。刺すように冷たい風です。
でもコートを羽織ればなんとかなりそうです。
私はこの風を利用して、色濃い世界の全てを見ようと思います。
「気をつけて」と手を振る人はいません。
私は旅立つことを告げていないのですから。
でも心配なさらないでください。
必ず帰ってきますから。
出掛けた時と同じコートで。
同じ赤い靴で。
少し伸びた背丈で。
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