幻想譚(Mermaid's dream 2)/月夜野
 
  箪笥のいない夜更けに
  わたしは廃屋に棲む四つ目と会う
  四つ目を思うとなんだかせつなくて
  夕暮れ時からたまらない気持ちになる 
  廃屋が見える路地まで来たら
  心臓が喉元までせり上がってきた


  四つ目はむかし神様だった
  節分の日に桃の木の弓で鬼を追った
  四つ目はときどき 
  追われる鬼に噛まれた傷を
  月光にさらしてヨモギで撫でた


  ああ 四つ目四つ目とわたしは囁く
  四つ目の頬は青白く 
  首筋は硬い木の肌のようだ
  ポケットに忍ばせた一つの林檎を
  四つ目と二人でこっそり食べた
  かすかな酸味が歯茎に残
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