幻想譚(Mermaid's dream 2)/月夜野
箪笥のいない夜更けに
わたしは廃屋に棲む四つ目と会う
四つ目を思うとなんだかせつなくて
夕暮れ時からたまらない気持ちになる
廃屋が見える路地まで来たら
心臓が喉元までせり上がってきた
四つ目はむかし神様だった
節分の日に桃の木の弓で鬼を追った
四つ目はときどき
追われる鬼に噛まれた傷を
月光にさらしてヨモギで撫でた
ああ 四つ目四つ目とわたしは囁く
四つ目の頬は青白く
首筋は硬い木の肌のようだ
ポケットに忍ばせた一つの林檎を
四つ目と二人でこっそり食べた
かすかな酸味が歯茎に残
[次のページ]
戻る 編 削 Point(16)