映写技師/佐野みお
小さな赤いオートバイを手に入れた
走り出したら初雪が舞った
公民館長が言ってくれた
君の好きな映画を上映しなさい
私は思い出した
いつかあなたと映画館に行きたかった
肩を寄せ合いポップコーンを齧りたかった
それで私は好きな映画を三本手配した
上映会は来週末だ
もちろんあなたは来ないだろう
上映中は真っ暗な映写技師室で
いつも私は作業用ペンライトの
小さな光で壁にいたずら書きをする
あなたの名前や似顔絵を書いたとしても
当然あとには何も残らない
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