沖に嘆いた/Utakata
海の音は巻貝の中に閉じ込められた夢の残滓である
それは耳の奥で息を潜める
息を
息を潜める渦巻いた器官のひそやかな記憶である
僕は肺魚の涙
細かな砂粒の上に身を横たえて
黒曜石のつややかな瞳が流す涙
自らが捨て去った青色の深みを想いながら
とうに死に絶えてしまった肺魚の涙
空が沈む頃
僕は薄荷味の煙草を咥えたまま小さく笑い
薄黒い波を眺めながら小さく笑い
それから
海の音
海の音は
海の音は迷宮の中に埋め込まれ
既に意味を失ったあまりにも古い郷愁の名残である
それは耳の奥で息を潜める
息を
息を潜める死に絶えた種族のひそやかな涙である
ねえ
ねえ 僕は
僕は黒曜石から流れ出た一粒の水滴の名残なんだ
名残なんだ
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