観覧車/椎名乃逢
が、足りないのかなあ
なんとなく、足りない「何か」の心当たりが、
薄暗い中ぽわんと浮かぶ外灯のように次第にくっきりとしてきて
けれども、私はそれに気づかないふりをして、
私の気持ちに気づかない彼に意地を張るように気づかないふりをして、
ただ彼のとなりで、何周も回り続けるゴンドラを見ていた
足りないものなんて、ないよね
くちびるより饒舌な指先で一生懸命それを伝えようとして
そのたびに彼のやわらかな眼差しに遮られて
いつの間にか頬をざらつかす
足りないものなんて
けれども私たちは観覧車に乗れない
観覧車に乗れない
ゴンドラの中のしあわせそうな誰かたちを
黙って見てるだけ
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