「魅惑的な旋律」?その日、彼は死んだ。/
白雨
雨傘よりも強く僕たちを刺戟するのは、
天よりも高い靴の響きである。
靴は沼地に奥深く喰いかかり、
森のなかは蛍の楽園を造形した。
知性は愚鈍の中に埋没し、
風はそれを助長した罪に問われて刑死した。
すべてがぴったりと止(や)んでしまったある日、
明滅する信号の律動と、
茶色い革靴の鉛を打った底だけが
音楽といえる音楽を照らし、主張した。
投げ棄てられたビール瓶は彼を失なって逃げた。
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