あの頃/青山スイ
 
覚えたての言葉で
精一杯表現していた頃
小さな町の小さな囲いで
小さな喜びを模倣していた

道端に咲いている花は
意識して歩かなくても
簡単に見つけられた
そっと顔を近づければ
鮮明に色を感じることができた

田圃を跳ねるカエル君は
ケロケロと楽しそうで
晴れだとか雨だとか
曖昧な予感になって
頭の中を通り過ぎていった

耳に伝わる言葉の温度
感情による表情の変化
何もかもが単純で
タイミングを計ったり
慎重に用途を選ぶ必要もなかった

言葉の持つ意味や
内に秘めたモノが
複雑になっていく事を
僕はまだ知らなかったし
何処かで君が生まれた事さえも
僕はまだ知らなかった

誰かの記憶に足跡を残しながら
手探りで前へ前へと進んだ
それは一枚の絵画のようで
変わることのない
あの頃として
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