膨れるスモークチーズと際限の無い循環/chitoku
 
早くそれを私に、という滑らかな声、
私はその声の主を見定めようと目を凝らす。
その人は、私の妻の姿をした、別の女で、
私が腕に抱いているのは、肉の塊。
スモークチーズのような、大きな肉の塊。
特別なものではないけれど、私の大事な持ち物。
妻の姿をした女は、赤ん坊を抱えていて、
赤ん坊を近くで見て、
顔を見れば、声を立てずに笑顔になる。
肌のにおいを心地よく感じる。
赤ん坊とひとつになりたい。
そして。

妻の姿をした女は、大きな肉の塊を持ち去った。
赤ん坊になろうとしていたら、盗まれた。
大事な肉の塊、
肉には見えないけれども、大きな肉の塊。
私の体は、むくむくと
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