手首 エデンへの変容/六崎杏介
 
最後に、無垢である為に』

貴方は「カット」から逃走して、其の行為に、愛に意味を与えた。
その純然たる意味を守る為に、貴方はその手首を切り落とさなければならない。世界に産み落とさなければならない。
手紙は相手に届き、机に大切に仕舞われなければ意味が無く、芸術作品は作者の手を離れ、世界と様々な交歓を課せられているからだ。
そして、その手首の切断、それに必要な道具こそが最も入手が困難なのだ。
貴方と貴方の愛が世界に対して無垢である為には、その刃物には一切の意味目的があってはならない。
且つて目的無く創られた刃物が、歴史上あっただろうか?
意味の無い、ナンセンスは又イノセントであるのだ。
名状し難き刃物、其れを探す事は困難を極めるだろう。しかし、貴方が其れによって自らの愛を産み落とした時、その落下点、そここそがエデンであると、貴方は確信と幸福に満ち足りるだろう。



 酩酊と論理の破綻した寒気の地より  6咲き

戻る   Point(6)