夕日のマフラー/杉菜 晃
 
ろか ミミズ一匹いない
現実に気づいた
あれはみんな夢の出来事だったのか
そもそも蛙なんかいなかったのか
彼は確認するために
閉じた傘を開いてみる
あんなに多くの蛙が
跳び出したのだから
一匹くらい
傘にしがみついていても
いいと思ったのだ

バネ仕掛けの傘が
威勢よく開くと
付着していた水滴が
微細な粒子となって弾け飛んだ
そこに夕日が直射して
彼の周りに虹がかかった
男は虹に目が眩んで
もう蛙を探すどころじゃない
それは七色の虹ではなく
夕日を映した真っ赤な虹だ
男はその赤い虹を首に巻いて
マフラーにすると
ようやく心落ち着いて
家路についた
傘を開いたまま置き忘れて



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