波間に漂いて/竜一郎
ラッコが羅針盤を片手に
ふらふら波間に漂っている
漣のか弱い腕に
引っ張られたりしながらも
そのうち皮膚が乾いてきて
またぞろ海に潜りはするが
寒くて浮上し日に当たる
高い波が来たときに
戯れに巻き込まれて
どこか遠くへ流された
「私は流されたのでない
泡の真似をしていただけ」
ラッコは落ち着いた様子で証言した
どちらでも同じと隣のラッコは笑った
おまえに責任はないと教師は慰めた
ふらふら波間に漂いながら
どこに流されても文句をつけぬまま
あのラッコは運ばれていく
どの聖典にも書かれていないところへ
と
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