車窓/青山スイ
 

寂しいという言葉に
意味はなかったし
嘘すらもなかった

車内では
眼鏡をかけた老人が
分厚い本と睨めっこしている
学生服を着た青年は
何かを思い出そうとしているのか
必死にペットボトルを握りしめている
子供が空を指差し
飛行機、と言う
母親は子供の髪を
優しく撫でて返す
そして
数十分後
もしくは
数分後
向かうべき駅の名前が
告げられると
僕らは
やあ、とも、じゃあ、とも言わず
窓の外に溶け込んでいく
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