好きになるということ/たにがわR
カナリアの声を
一枚の手紙に文字を綴る指に感じながら
また人を好きになることがあるものだと不思議に感じていた
インドでは後幾らかで日が沈むらしい
その街を包むほどの大きな夕日が私に力を貸して
淡いグレーの罫線のなかに綴られていく文字は心なしか少し大きい
いつもなら嫉妬するほどの夕闇の群青色が
やけに晴れやかに見えるから不思議だ
君の名前が書かれた琥珀色の便箋の脇に
かかれた平凡な名字
それさえも許すことができる
いつのまにか「好きになるということ」を失っていた私にとって
忘れてから気づくことがあるのだと
いまさらながら
杉本には教えてもらった
インドではそろそろ朝日が昇るらしい
ここは日本だからそれほど関係ないが
私が人を好きになる
わりと美しい日だったりする
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