ピラニア/「Y」
 
答えた。
「なんだ。そうなのか」
 父は、すこし拍子抜けしたような顔をして、そう言った。
 帰り道で父が僕のことを見て言った。
「お前がさっき長いこと見ていた魚、あれは大群で牛を襲ったりするやつだよ。たしか」
「襲う? 襲うって、どういうこと?」
「エサにするということさ。鋭い牙を持っているんだ」
 あんな魚を飼ったら、エサ代だけでも大変だと呟きながら、父が喉の奥から篭もった笑い声を出すのを聞きながら、僕はバス通りの向かいに建っている都営住宅の壁が夕陽に照らされている様子や、空を広がっている羊雲を眺めていた。羊雲は夕陽に照らされて、輪郭を丹色や曙色に染めながら、その一つ一つをくっきり
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