ピラニア/「Y」
 
水槽の上隅に、「ピラニア・ピラヤ」と書かれた小さな紙が貼り付けられていた。
 僕はその魚の故郷がアマゾン川だということも、その魚の本来の名前がピラニアだということも――つまりピラニアに関する事を、何も知らなかった。僕はただ、円盤型の身体を悠々と水の中に漂わせているその魚の、下顎から腹のあたりの膚を染めている朱色を、ぼんやりしながら眺めていたのだ。その朱色は魚の身体の動きにともなって、淡くなったり濃くなったりした。
「隆、えらい熱心に見てるじゃないか。飼いたいのか、こいつを」
 一緒に来ていた父の言葉に、僕はすこし驚いて、
「飼いたいだなんて、ちっとも思ってないよ。面倒くさいし」
 と答え
[次のページ]
戻る   Point(4)