春/月焦狼
 
あいつと初めて会ったのは
制服着ての入学式
期待に胸を躍らせた

春 桜の木の下で

暑く輝く太陽と
どこまでも澄んだ空のもと
互いを認め合ったのは

夏 桜の木の下で

季節外れの台風に
稲妻の音の響く中
あいつが雨にぬれたまま
そっと想いを告げたのは

秋 桜の木の下で

雪のちらつく寒い日に
木枯らしの音を聞きながら
気持ちははっきり見えないが
傍にいたいとささやいた

冬 桜の木の下で

それからしばらく時が過ぎ
縺れて撓んだ関係に
消えてしまえと叫んだ直後
あいつは黙って姿を消した

顔色変えて 探す俺


夕闇の中 月明かり
舞い散る桜花(はな)すら紅く染め
あいつがわずかに微笑んで
想いと別れを告げたのは

春 桜の木の下で



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