怨念マリモ/「Y」
 
槽に入れられた、小さなマリモだった。マリモは薄桃色の光を、規則的に発している。まるで、呼吸をしているかのようだった。
「あれは、何ですか」
「あなたは、ご存知でしたよね。怨念の……」
 それは、存じておりますが、一体誰のものなのでしょう、と女生徒が問いかけると、助手は黙って首を振った。
「名札が付いていないのです。他のマリモは全て、遺族の方々にお返ししたのですが……」
 女生徒と助手は、無言のまま、顔を見合わせた。

 現在そのマリモは、円柱形の水槽に入れられて、女生徒の部屋に置かれている。勉強の合間に女生徒は、机の上に置かれたマリモを無言のまま眺める。マリモは女生徒のまなざしに応えるように、ぼうっと薄桃色の光を発する。
 マリモの光は徐々に、淡く、弱いものに変化してきている。
「あと半年もすれば、光も消えるね」
 マリモを見つめながら、女生徒はそっとつぶやく。
「そうしたら、湖に帰してあげるからね」
(了)


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