L'eau Gazeuse/Utakata
恋人が去ったあとのベッドからはいつも決まって炭酸水の匂いがする
苛立ちが砂に変わるほどの長い時間の果てに届いた一通の絵葉書には
硬質で乾燥した陽光の真下で笑う彼女の影だけが黒く縁取られていた
何しろこちらの真夏の手触りなどはそっけないまでに幾何学的なので
彼女の影が海の果ての異国へ黒いリヴォルヴァーを携えていったのは
あくまでも自然な成行きの結果に過ぎなかったのだと独りつぶやいた
結局
僕の目の前に残されたのは
群青色のガラス瓶に入ったソーダが一本
鋭利な朝の光の中で俯いたまま笑い
小さな金魚を一匹落とし込んだら
すぐに無数の泡に食われて死んでしまった
骨だけが浮かぶ夏
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