ベルベットの夜/銀猫
見覚えのない住所から
冬の匂いの封筒は届き
記憶の引き出しから
銀のペイパーナイフと
あらん限りの想いの欠片とを
わたしは交互に取り出す
かさり、と開くと
月夜の薄明かりのなかで
沈黙していた言葉は
冗舌になり
鈍く光り始める
十一月が語るのは
晩秋に燃える木々の葉や
夕刻の煙が目にしみることばかりで
肝心なこころについては
触れようとせず
蜜を絡めとるように
細心に温もりを求めても
忘れた、というように
静かにわらうばかり
冬を運んで来たのは
きっときみに違いない
星座の名前や
ベルベットの艶やかな闇など
語るのはきみに違いない
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