背骨を読む/はらだまさる
 
夕立の中で君は背骨を読んでいた。

真っ暗な瞼のうらに現れているみどりの正三角形を、
くうきを吸い上げた則妙筆でなぞるように
繰り返してみる。

大地を這う蛇に似た、
千万(ちよろず)の芳香が
何度も何度も脳髄を突き刺す槍のように
君を粉々に粉砕している。

最小単位の意味よりも
小さな粉末になった君は
ほどけない、どうにもほどけない永遠を
ほどかないと心で決めた。

林檎の実と皮との、間にあるものを。
朱墨の滲みゆく半紙を。
まばたきという絶望を。

愉快な彼等は
彼等で忙しいことを
充足しているから。

赤い雨に湿った紙の月をゆっくりと
誰も知らないことを誰にも届けられない、その指先で
少しずつ破いてみる。


今日はいつもより背骨が痒い。


君はそう言って私に
微笑んだ。





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