砂の海/Utakata
 
蕩けた砂が滲入を続ける内耳迷路
既に自壊を始めつつある 褐色の背中に口を寄せ
愛していると呟いた

微笑む金色の闇の中で僕たちは陥入する
滑らせる指にかすかな違和感 ああ
それは多分 彼女に棲んでいる鈍色の甲虫
内耳の奥に卵を産みつけ
背骨の内部から羽ばたいて飛立つ
それまでの間 彼らは
迷宮の底から何事かを囁きかけるそうだ

結局のところ
日曜日なんてただの幻想に過ぎなかったのだし
今日が何日だったか忘れてしまっても
あれに掛かった時間は秒単位まで覚えていられる というわけだ

結晶化がはじまり
ようやく透明になり始めた君の身体
硬質硝子の奥に輝く二対の目を覗き込みながら
アイシテイルと呟いた

息ができない
息ができない
膨張する都市的構造体の中で 流れる砂は融解し屹立する
脳の襞にまで入り込む二十面体の粒子に
君の肩甲骨から産まれる二枚の羽根を見た

金色の闇はまだ醒めない

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