白い旗 夏の終はりの海岸線/杉菜 晃
 
緑濃い山陰(やまかげ)から
ひらりと紋白蝶がさまよひ出た
断崖の下は海の群青
湧き上がるすでに夏とはいへぬ
冷ややかな風を器用に避けつつ
蝶は陸に沿つて舞ひはじめる
波打ち際には
幾千万といふ白い蝶が
押し寄せては砕けてゐる
白波を仲間の最期と見た
紋白蝶の錯覚
鮮やかな錯覚


―ああ 自分もあんな死骸と
なつて果てる前に
寄る辺となるものを
探さなければ―


紋白蝶は
崖縁から砂浜に出て
夥しく押し寄せる
死せる蝶の上を飛んでいく
空中にさまよふしかない
悲しい妄想の中を舞ひつづける


漁港が見え
手前の砂浜に
出漁を告げる
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