気紛れではなしに/杉菜 晃
 

来る日も来る日も
欲しいだけの陽は降り注ぎ
水の恵みも充分受けてはゐたが
代はり映えのしない日々に
嫌気がさして
葉叢のなかの一枚が
ある日 ひらりと裏返つた

―決して気紛れではなしに―

さうやつて 朝には露を
昼には光を受けていつたが                 


秋ともなり 紅葉すると
落葉樹のしきたりにより
諸葉が憔悴して地に吸はれていくとき
裏を上にしたその一枚だけは
吸ひ上げられていつたのだ
秋晴れの天へ
諸葉が地に吸はれると同じ速度で
天に吸はれていつたのだ


目を凝らすと
吸ひ上げられていくのは一枚ではなく
をちこちの林から 森から 並木から
きらきら
新しい命に煌きながら
舞ひ昇つていくものがあつた
一路おほぞらへ 
かぎりなき紺青 
見えざる
透明な世界を指して
消えた



 

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