ぬけがら/九谷夏紀
あの人が私に与えたものを思い出す
いま私が居られる唯一のこの場所で
ここにはひとりの静けさが満ちて
地下室のようにひんやりとして
ぬけがらばかりがころがっている
それぞれのぬけがらに分身が住みつき
私とはかけ離れて成長している
不気味な気配が漂う
ぬけがらにとっては
この上なくここちよく
ついぬけがらでいることがあたりまえのように思えてしまうのだ
ぬけがらなど
本質を育ててしまえば
本来不要で
土に帰ってゆくものなのに
そのぬけがら自体になってしまうなど
そのさきゆきを志願でもしているのか
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