もうしません/蒸発王
 

【睫毛の先】

もう
恋なんぞしない
と思って泣き続けたら
はらはらと
睫毛が残らず抜けてしまった

恋は
睫毛の先に止まるという


以来恋をしたことは無い


【督促状】

返せ

指輪を返そうと
薬指をぴっぱたら
指ごと抜けてしまった
貴方は
そんなこと気にもしないで
受けとって


遠ざかっていった


薬指を返せ


【グラスの同情】

独り
ちょっと良いグラスに
ちょっと良い酒を注いだ
顔の筋肉を必死に動かして
眼球の裏から例の塩水を吸い取っていたけど
塩分は舌に転移した

苦味しか感じない酒
グラスについた水滴が
こらえきれず流れると
同情された気がして


もう目を開けてられなかった



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