はてしなの響き 【音編】/−波眠−
 
音の水位があがっていく。
沈黙への恐れから振り上げられているのだろうか。
一定の間隔をもって振り上げられるばちは、まわりの闇を一層深くする。
幾度も言葉を変えて繰り返される歌詞も。
僕の頭はただただ音に満たされながらも、空っぽのままだ。


どうしてだろう。
たった一つの音は水溜まりに落ちる水滴のように
一瞬しか響かせることができないのに、
重ねることによってまるで途絶えない水のような
厚みと安心感を抱かせることができる。


初めてここに来ると眠れませんでしたと言う声を聴いて
心底驚いたことを覚えている。
眠りを妨げたもの。泣き止まない虫の声、木々のざわめき。

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