命の鬼籍/whipporwill
春、生命を孕んだ風が吹く
母は児の明日を願って
俺はいずれ来る明日を待望
雪解けの音に耳を澄まし
花の香に夢を預ける
明日は来ないと知っていました
夏、生命を孕んだ風が吹く
母は児の幸福を願って
俺はやがて訪れる明日を待望
寄せては孵らぬ音に耳を澄まし
日の光に望みを預ける
明日は来ないと気付きました
秋、生命を倦んだ風が吹く
父は児の明日を願って
俺は決して来ない明日を渇望
落ち逝く一葉に耳を澄まし
落陽の朱に己を重ねる
明日は来ないと知らされました
冬、生命を倦んだ風が吹く
父は児の幸福を願って
俺はありえない明日を渇望
枯れ逝く叫びに耳を澄まし
冷たい蒼穹にを己を与える
明日は来ないと気付けました
春、明日は来ないと教えられた
1985年の初春の誕生日
明日はもう来ないのでしょう
明日はもう来ないのでしょう
明日はもう来ないのでしょう
明日はもう来ないのでしょう
俺はまだ此処にいます
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