花の名前をおぼえようとする/角田寿星
マリーゴールドと
マーガレットの区別がつかない
ツバキとツツジを間違えて
笑われてしまう
アヤメとカキツバタにいたっては
はなっから諦観の境地で
でもそれはちょうど
パスカルとサルトルを間違えたり
萩原朔太郎と
高村光太郎の区別がつかないのと一緒で
きっと大したことじゃないんだろう
土曜の朝に
ぼくとたあくんは電車を乗り継いで
手をつないで花の咲く私鉄沿線を歩く
たあくんはことばが遅い無口な幼児で
父親のぼくもきっとことばが遅いんだろう
パンジーやサクラソウがご丁寧にも
名札をぶらさげてつつましく笑っている
閑静な住宅街の空き地は
クマもオオカミも荒らしに
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