紫煙/岡村明子
京急線高架の下に
救急車が止まっていた
それだけなら
人通りの多いこの界隈で
不思議なことは
何もないのだが
そこには二人の
警官がいた
警官の後ろ
あしもとに
くの字に曲がった
男が倒れていた
救急車に乗せるでもなく
なにより異様なのは
警官が男を隠すように
歩行者に向かって
立っていることだ
なぜ起こさない
人が倒れているのに
なぜ救急隊員でなく
警官がいて
なぜ倒れている男を
助けない
なぜ
同じ問いを
二度頭の中で反芻して
戦慄した
助ける必要がないから
私は
会社へ向かったが
汚い格好で
くの字に曲がって
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