春の旅人/まんぼう
 
春の夜の淡雪は消え残り
白と紫に染め分けた山が
灰色の空のなかで静謐に光っている

午後の暖かな日差しが雲を溶かし
日陰に水路のながれる町で
冷たく甘いチャイを飲んだ

開け放った窓は滑らかな木のテーブルを暖め
記憶は水中の魚のきらめき
水泡となって浮かび上がる

お前は何もわからずにまだこんな所にいるのか
こもれびが薄暗がりでさざめきかける

春の日の旅人はすでに老いて愚者の眼差し
ただ口を閉ざしてとおくに霞む山を見る
光の中には小さく白いものが浮いている

それにしても私に何が見えるというのだろう

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