山の名前/佩慈の工人
 
人に抉られ続けた跡が 消えてはいない山
絞り尽くされた木の幹に乗り上げた足は
痛みもなく山を登る
のぺりとなだれる空の底をかきこわそうと
枝は剥き出しになって待つ
白い石はない
肩にかかった蛇の血はもう乾いた

枝の間に鳥はいる 家もまだある
気配をなくした人は
きっとあの中でうすやみに濡れているはず
木はまだ水を流している
うっとうしい芽吹きを我慢出来なかった
あの木は 
家を覆い尽くしながら

空はもうじき 山の苛立ちに触れにくる
触れても潰れない人を見限って
空は素早く降りてくる

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