近藤くんへの手紙 〜南仏にて〜/馬野ミキ
れ、やさしく揺れている
まるでいつ死が訪れても不思議ではないみたいに
庭でチューリップを育てているんだ
隣に住む婆さんから種をもらった
花というのはとても可愛いものだね近藤くん
毎日水をやっているんだ
それは俺が選んで決めた俺の仕事なんだ
近藤くん、疲れたらいつでも遊びにおいでね
一人でいたい時間もあるだろけれどね
せっつめないことさ
僕もこっちに来て詩なんか書くのはやめにしたよ
詩以外にもたくさん美しいものがこの世にはある
どこまでも広がる空と、海 連なり飛ぶうみねこ、この地方だけに生息する蝶、沖で衝突するタンカー
たくさんのものが見える
そして笑ってしまう
何しろワインが飲み放題!
僕もたまには日本語で誰かと喋りたくなる夜がある
久しぶりに手紙でも書こうかな
近藤くん、お元気ですか?
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